港区ワンダーランド - 超高級不動産の世界

私の収入は節税が必要なほどではない。
外資系に勤める知人がやたらと太陽光発電所を買っていた。 リノシーと同じく、減価償却狙いの節税だろう。 昔はFIT(固定価格買取制度)も高く売電収入もあったから、利回りが期待できない中古ワンルームマンション投資よりはマシなビジネスモデルだったのかもしれない。
その知人は、未上場なのにストックオプションに課税されて、税金を払うために外貨預金を解約したと話していた。 勝ち組なのだろう。 少なくとも私よりはるかに資産を持っている。
プライベートバンクの現実
最近、唐沢寿明主演の「プライベートバンカー」というドラマを観た。 とても面白かった。
プライベートバンクは、最低でも2本(200万USD、約3億円)を預けないと口座が開けない。 間違いなく富裕層だ。 だが、資産数億円で買える不動産はいくらだろうか?現金一括でなければ、アセットバックローンを組むことになる。 もちろん、一般的な住宅ローンは使えない。
アセットバックローンとは、不動産や株式などの保有資産を担保にして借り入れるローンのこと。 高額な物件購入時に現金を動かさず、資産の流動性を保つ手段として富裕層に利用されている。
超高級物件の世界
当社が扱っている物件は数億円から数十億円の住宅である。 月収数十万円の私からすれば別世界だが、ビジネスではこれがリアルだ。
東京にも超高級不動産は存在する。 しかし、その情報は一般には出回らない。 無意味だからだ。 購入に住宅ローンが組めない時点で、99.99%の人は顧客対象外という、シビアな世界である。
ファミリーオフィスという存在
これらを購入する人たちの資産はどれくらいか?
一般的に「ファミリーオフィス」を持っている人たちだろう。 ファミリーオフィスとは、超富裕層一族の資産を包括的に管理・運用する組織のことだ。 投資、税務、法務、不動産管理、次世代教育まで、一族に関わるすべてを扱う。 設立には最低でも数十億円、理想的には100億円以上の資産が必要とされる。
複数の富裕層で共同運営する「マルチファミリーオフィス」という形態もある。 コストを分担できるため、単独のファミリーオフィスよりも少ない資産規模でも利用可能だ。 私も香港のプライベートバンカーから教えてもらうまで、こんな世界があることすら知らなかった。
蟻とゾウの間で
私の身近には幾人ものスーパーリッチがいる。 資産額は言えないが、会社を上場させたり、世界中に不動産を持っていたり、株で信じられない額を儲けたりしている人たちだ。 FXで数万円儲けて喜んでいる私など、まさしく蟻とゾウである。
だが、象を知っているからこそ、感覚がずれることもある。
先日、名刺交換した人が自慢げにこう言った。
「スイスのプライベートバンクに口座を持っています」
一般的には「すごい!」となるのだろう。 だが私は「へー」くらいだった。 申し訳ないが、20億円の物件の顧客にはなってもらえそうにない。
奇妙な感覚の相対化が起きているのだ。
感覚の相対化
ここ数か月、子供たちが大好きな大食いファイターのゾウさんパクパクの動画をみていた。 一食で7kg食べることに驚いたのは最初だけ。時期に感覚がバグって、それが当たり前になった。 ある日、ジンベエザメの餌が一日7kgと知ったのだが、「人間より少ない」と感じていた。
まさに、これと同じだ。
もちろん、私自身は1日に1kgも食べない。 この歳になると、水を飲んだだけでも太ると実感している。
蟻には蟻の役割がある
南青山のオフィスから見えるのは、整然とした街路樹と落ち着いた街並み。 派手さはないが、これが南青山の品格なのだろう。
この静かな景色の裏側で、数十億円の不動産が密かに取引されている。
こんなおとぎ話のような世界と現実を行き来する生活が、東京ならできる。
港区はワンダーランドだ。
庶民の感覚も富裕層の世界も知る通訳者として、この不思議な世界の橋渡しをしていこうと思う。 それが私にしかできない価値なのかもしれない。