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FX放浪記trade 17💲FX取引で陥りやすい心理的罠:プロスペクト理論から読み解く失敗パターン

誰もが経験する投資の難しさ。その背景には、実は私たち人間に共通する心理的な特徴が隠れています。 冷静な判断を心がけていても、なぜか感情が徐々に判断を狂わせていく ——この現象を科学的に解明する手がかりとなるのが「プロスペクト理論」です。
投資判断を支配する心理的バイアス:プロスペクト理論
プロスペクト理論は、人間の経済的判断における心理的特徴を説明する重要な行動経済学の理論です。
1. 可能性効果
利益局面では安全な選択を好む一方、損失局面ではリスクの高い選択をしがちです。
具体例:
- 宝くじ:極めて低い当選確率にもかかわらず、高額賞金に魅力を感じ、購入する
- 万馬券:極めて低い的中確率にもかかわらず、高額配当に魅力を感じ、購入する
2. 損失回避性
同じ金額でも、利益よりも損失の方が心理的インパクトが大きくなります。
具体例:
- 1000円を失うことの精神的苦痛は、1000円を得ることの喜びの約2-2.5倍とされる
- FXトレードで、含み損を抱えたポジションを決済せず、建値にもどることを期待して保有し続けてしまう傾向
3. 確実性効果
確実な利益は過大評価し、可能性の低い損失は過小評価する傾向があります。
具体例:
- 買い物ポイント:確実に得られる割引やキャッシュバックに魅力を感じ、ポイントを貯めたり、ポイント付与の商品を選んだりする
- 人気馬券:当たる確率が高い(確実性が高い)と考えられる人気馬に投票する
4. 参照点依存性
判断の基準を現在の状態(参照点)に置きやすい特徴があります。
具体例:
- 給与が30万円から28万円に下がる場合と、25万円から28万円に上がる場合では、同じ28万円でも感じ方が全く異なる
- セール時の標準価格表示は、値引き額を強調することで参照点を操作している
5. 非線形性
価値関数が非線形であり、利得・損失ともに限界効果が逓減します。
具体例:
- 1万円から2万円への増加と、10万円から11万円への増加では、前者の方が主観的な価値の変化が大きい
- 初めての昇給5000円は嬉しいが、すでに何度も昇給している人にとって追加の5000円の価値は相対的に小さい
効果の相互作用
これらの効果は単独で働くだけでなく、相互に影響し合います:
- 損失回避性と参照点依存性が組み合わさることで、現状維持バイアスが生まれる
- 可能性効果と確実性効果が組み合わさり、保険商品への加入判断に影響する
日本人の投資心理とプロスペクト理論
日本人は、一般的に可能性効果よりも確実性効果を好む傾向があると言われています。 日本の文化は、リスク回避的であると考えられています。 不確実性を避け、安定性や予測可能性を重視する傾向があります。 この文化的背景が、日本人の意思決定にも影響を与えていると考えられます。
例えば、日本人は、宝くじの購入率が欧米諸国に比べて低いことが知られています。 これは、極めて低い当選確率に魅力を感じにくい、日本人の可能性効果に対する態度を反映していると考えられます。
一方、日本人は、確実に得られる利益や報酬を重視する傾向があります。 例えば、日本の企業では、年功序列型の賃金体系が広く採用されてきました。 これは、勤続年数に応じて確実に賃金が上昇することを保証するシステムであり、日本人の確実性効果に対する選好を反映していると考えられます。
投資においても、日本人は、リスクを取ることに消極的であり、確実な利益を得られる投資商品を好む傾向があると考えられています。 日本でベンチャー投資が欧米ほど盛んでないのも、この文化的背景によるものと言えるでしょう。
なぜFXトレードは難しいのか
このような心理的特性は、FX取引において如実に表れます。 テクニカル分析専門サイト『テクニカルブック』の調査によると、FXをやめる理由は次の通りでした。
- 資金を大きく失った(19.9%)
- FXに疲れた・興味を失った(17.6%)
- 思うように利益が伸びなかった(16.9%)
この数字が示すのは、単なる資金的な損失だけではありません。 FX取引では、資金の増減が直接的な形で私たちの感情を揺さぶります。 その感情の揺れは、プロスペクト理論が示す心理的バイアスと結びつき、次第に判断力を蝕んでいくのです。
(続く)