日本のシステム開発業界における構造的問題:30年の現場経験から見る深刻な実態

私の肌感覚から始まった問題意識
30年以上にわたりITエンジニアおよび経営コンサルタントとして活動してきた私は、 近年、日本のビジネス環境において一貫して同じ問題に直面してきました。
私にとって「当然」であるはずの納期遵守、適切なコミュニケーション、 品質確保といった基本的なビジネス原則が、業界全体では例外的な存在になっているという現実に強い問題意識を抱いています。
私の肌感覚では、以下のような傾向が顕著です:
- 実装能力が著しく低い
- オフショア開発が前提となり技術力の空洞化が進行している
- ウェブ制作上がりの技術基盤が弱い企業が多い
- 「報・連・相」という基本的なビジネスルールが遵守できない
- マネジメント能力の欠如によりスケジュールが容易に破綻する
- 開発スケジュールが破綻すると連絡が取れなくなるケースもある
さらに注目すべきは、この問題がシステム開発だけでなく、経営コンサルティングの領域でも同様に発生しているという事実です。 私の経験では、稚拙な事業計画書を提出してきたコンサルタントに改善点を指摘すると、連絡が滞り始め、ついには連絡がつかなくなるというパターンがありました。 また、納期を過ぎても連絡がないため、こちらから確認すると「まだできていません」と返答されるという非常に基本的なビジネスマナーの欠如も目にしてきました。
エビデンスによる裏付け:実装能力と生産性の低さ
私の肌感覚は、具体的なデータによって裏付けられています。 日本情報システム学会の報告によると、日本のSEを世界主要国と比較した結果、「生産性が低い、給与が低い、誇りが持てない」という深刻な調査結果が得られています。
かつては生産性向上の工夫が行われていましたが、人材不足による競争環境の緩和が付加価値向上の取り組みを弱めています。 この調査結果は、私が日々感じている「実装能力の低さ」という実感を学術的に裏付けるものです。
エビデンスによる裏付け:オフショア開発への依存と問題点
経済産業省の2019年の発表では、日本では2030年までに約59万人ものIT人材が不足すると予測されています。 この深刻な人材不足を背景に、IPAの調査によれば日本のIT企業の約45.6%がオフショア開発を導入または関与していることが報告されています。
私の直近半年間の経験では、オフショア開発において技術を理解できない管理者SEが介在することで、 セキュリティリスクの高い、いい加減なデプロイが行われるという具体的な問題が発生しました。 これは「オフショア開発が前提」となっている日本の開発環境において、品質管理やセキュリティ管理が十分に機能していない証左です。
エビデンスによる裏付け:報連相の欠如とコミュニケーション不全
「期日に間に合わないことが濃厚になった時点で連絡すべきところ、遅延が発生してから連絡するパターン」が常態化していることは、複数の調査でも指摘されています。
過去の炎上案件の調査では、「拠点間MTGが週1でさえ行われておらず、本当にブラックボックス状態だった」という極端な例も報告されています。 また、「仕様が変更になったにも関わらず、何も共有がない」というサイレント変更も特に炎上案件で頻発していることが指摘されています。
これらの報告は、私がシステム開発だけでなく、コンサルティング業務においても経験してきた 「稚拙な事業計画書を提出してきたコンサルタントにダメ出ししたら連絡が滞り始め、ついには連絡がつかなくなった」という事例と本質的に同じ問題を示しています。 つまり、プロフェッショナルとしての基本的なコミュニケーション能力と責任感の欠如が、業種を超えた構造的問題として存在しているのです。
エビデンスによる裏付け:マネジメント能力の欠如とスケジュール破綻
JUASの「企業IT動向調査報告書2023」によると、システム開発の工期・予算遵守や品質満足度について「満足」と回答した割合は驚くほど低いことが報告されています:
- 100人月未満の小規模プロジェクトでも工期遵守状況への満足度は32.4%
- 予算遵守状況への満足度はわずか16.2%
- 品質満足度状況も14.1%と低迷
500人月以上の大規模プロジェクトではさらに状況が悪化し、工期遵守状況への満足度は22.4%まで低下します。
スケジュール破綻の主な原因として、「プロジェクト開始時にスケジュールを楽観的に設定しすぎる」ことや「楽観バイアス」の影響が指摘されています。 これらの数字は、私が現場で目の当たりにしている「すぐに開発スケジュールが破綻する」という実感を客観的に裏付けるものです。
エビデンスによる裏付け:連絡不能問題の深刻さ
最も深刻なケースとして、開発が破綻した際に連絡が取れなくなる事例も報告されています。 ある調査では、制作会社が倒産し「制作していただいたホームページのデータやドメインなどは渡すことが出来ない」と担当弁護士から通告された事例が紹介されています。
このようなケースでは、クライアントはリース契約で支払っている制作料金の支払いを継続しなければならず、二重の被害を被ることになります。 これは私が経営コンサルティングの現場でも経験した「納期を過ぎても連絡がないので、こちらから声をかけると、まだできていません」という事象と同根の問題です。 責任から逃れるためのコミュニケーション回避という行動パターンが、業界を超えて存在していることを示しています。
顧客側の不満に関するエビデンス
システム開発の外注に関する調査では、約9割の企業がホームページ制作の外注で失敗経験があると回答しています。 主な不満や失敗の理由は:
- 発注先とのコミュニケーションに認識齟齬が起きた(73.9%)
- プロジェクトの進捗が滞った(69.6%)
- コストが増加してしまった(67.4%)
- 納期未達(33.33%)
約8割の企業が、サイト制作依頼時に「費用感が不透明」「設計が不十分」「ヒアリングが不十分」といった不満を持っています。 これらのデータは、私が現場で感じている「あまりにも多くの業者が基本的なビジネス原則を遵守できない」という感覚を数値で証明しています。
これらの問題は、システム開発とコンサルティングという異なる分野で同様に発生していることから、日本のビジネス環境における深い構造的問題を示唆しています。 多くの調査結果がこの見方を裏付けており、私の30年以上にわたる業界経験から得た肌感覚は、単なる主観的印象ではなく、日本のIT・コンサルティング業界全体に広がる客観的な課題であることが証明されています。
私の強みと改善への提言
私のキャリアを通じて築き上げてきた最大の強みは、これらの問題をクリアし、納期・予算・品質を遵守するプロジェクト運営能力です。 私にとっての「当たり前」が業界全体では希少な価値となっているのは皮肉な現実ですが、それが私の競争優位性となっています。