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技術文化史

日本のIT産業における構造的問題と安全保障上の課題

日本のIT産業における構造的問題と安全保障上の課題のイメージ

人月商法と多重下請け構造の変遷

1990年代からの継続的な課題

1990年代の人月モデルと多層下請け構造は、形を変えながら現在も健在だ。 この構造は日本のIT産業の根幹として定着し、継続的な課題となっている。

現代の形態への進化

現代ではSESモデルという形態で、設計や実装をオフショア開発に丸投げするなど、より徹底した人月単価の利益追求が行われている。 この進化は、より複雑な下請け構造と、さらなるコスト削減の追求をもたらしている。

歴史的な安全保障上の脅威

1990年代の反社会的勢力の参入

90年代前半、反社会組織がシステム開発会社を舎弟企業としていた。 私はアルバイト後に独立し、会社を経営することになったので、就職活動などしないために知らなかったのだが、 社員によれば、業界では有名だとかで、就職情報誌を見ながら「この会社、893のフロント企業なんですよ。」と話していた。 1992年の暴対法施行以降、合法的な経済活動を求めた暴力団が、ITエンジニアをシノギにしていたのだ。

オウム真理教事件の教訓(1995年)

1995年のオウム真理教事件では、ダミー会社を通じて警察や自衛隊のシステム開発を受託していた事実が発覚。 通常より3割安い価格設定と高品質な開発で、一部の政府機関の重要システムに深く関与していたことが明らかになった。

なにせ給与はすべてお布施として寄付。 仕事が徹夜でも休みなしでも、ハードな状況に追い込まれるほど、厳しい修行になるため、ステージが上がるのだろう。 しかもオウム信者は高学歴な理系が多かった。 安くて高品質、激務も厭わないなんて、理想的な発注先だ。 秋葉原の「マハーポーシャ」というオウム真理教のPCショップも業界では有名だった。

製造業との類似性と国内実装能力の空洞化

製造業の前例

この状況は、日本の製造業が辿った道と酷似している。 製造業が海外に拠点を移転した結果、国内の製造現場が消失し、多くの原材料や物資を輸入に頼らざるを得なくなった。 コロナ禍でこの脆弱性が経済安全保障の観点から問題視され、 円安も相まって製造業の国内回帰が叫ばれているが、生産を再開できる人材が既に失われている可能性がある。

IT産業における空洞化

IT業界も同じ道を辿っているが、その影響はより深刻だ。 国内で実装できる人材が著しく減少し、この傾向は今後も続くと予想される。 しかも、IT開発における経済安全保障上の問題は、90年代から既に顕在化していた。

現代の新たな脅威

国家レベルの脅威

近年では、北朝鮮によるIT技術者の偽装派遣が新たな脅威となっている。 リモートワークの普及により、中国やロシアからログインして作業を行う偽装技術者が、 Fortune 100企業の生産システムに高度なアクセス権を取得する事例も報告されている。

2022年には兵庫県の防災システムが北朝鮮の技術者によって開発されていた事実が発覚。 Jアラートのミサイル発射情報も扱う重要インフラが、多重下請けを通じて開発されていた実態が明らかになった。

クラウドソーシングにおける課題

クラウドソーシングサービスでも、日本人になりすました外国人による不正な受注が横行している。 システム開発や機密情報を扱う案件では、サーバー情報やログイン情報を不正に取得される危険性も指摘されている。

今後の課題と展望

このように、IT開発の海外依存は単なるコストや人材の問題を超えて、国家安全保障上の重大な脆弱性をもたらしている。 しかし、一度失われた国内の実装能力を取り戻すのは容易ではない。 人材育成には時間がかかり、技術の進化スピードは年々加速している。 この問題に対する抜本的な解決策を見出せないまま、リスクは増大し続けているのが現状だ。