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業界洞察

WordPressフリーランス業界の闇 - 35年のエンジニア経験から見えた課題

WordPressフリーランス業界の闇 - 35年のエンジニア経験から見えた課題のイメージ

35年以上のITエンジニアとしての経験を通じて、WordPress開発業界の深刻な課題に直面してきました。 本記事では、特に中小企業向けのシステム開発において頻発する問題と、その背景にある構造的な課題について論じます。

技術力の著しい格差

WordPressは、その柔軟性と拡張性から多くの企業に採用されています。 しかし、この手軽さが皮肉にも大きな問題を生み出しています。 私自身もフリーランスとして活動していますが、業界の実態には深い懸念を感じています。

システム開発の基礎的な経験もないまま、独学でプログラミングだけを学んで仕事を請け負うケースが散見されます。 プログラミングの技術はあっても、エンジニアリングの基本概念や開発プロセスを理解していないフリーランスが多いのが現状です。

深刻な事例から見える課題

最も衝撃的だった事例として、外注委託した10件のホームページが納期直前にサイバー攻撃を受け、全データが消失するという事態を経験しました。 さらに、同時期に開発中だったECサイト3件も影響を受けました。

攻撃の詳細な原因は特定できませんでしたが、WordPressの脆弱性を突かれてシステムを乗っ取られた可能性が高いと考えています。 当時使用していたKUSANAGI(高速なWordPress運用環境)の特性上、一つのシステムが侵害されると、同じ環境で運用している他のWordPressサイトにも被害が及び、結果としてすべてのサイトが消去されるという連鎖的な被害となりました。

プロジェクト管理の欠如

基本的なビジネススキルの不足も深刻です。 外注先の業者は、ホームページは何とか納品したものの、ECサイトについては完全に放置する事態となりました。 開発を請け負った会社の社員が「社長と連絡が取れない」と言い始め、その後わずか半月で外注先の誰とも連絡が取れない異常事態に発展しました。

開発会社のオフィスに直接足を運んでも不在。 以後、一切の連絡が取れないまま状況は暗礁に乗り上げました。 報告・連絡・相談といった基本的なコミュニケーションすらままならない状況は、単なるスキルの問題を超えて、プロジェクト全体の健全性に関わる重大な課題となっています。

プロジェクトの進捗管理や品質管理プロセスが完全に欠如しており、クライアントとの約束も平然と反故にされる状況が日常的に発生しています。 さらに、安請け合いして実現できなくなると連絡が取れなくなるケースや、顧客に確認せずに自分の想像で「えいや!」と作業を進め、クレームが来たら対応すればよいという姿勢も目立ちます。

このような対応は素人相手なら通用するかもしれませんが、プロの顧客には通用せず、深刻なトラブルに発展することがあります。

信頼性の問題

さらに深刻なのが、フリーランスエンジニアの身元確認の難しさです。 実際の調査で判明した事例では、架空の事務所所在地を申告したり、実在しない番地を使用したり、あるいは農地を事務所として登録するようなケースも見られました。

オンライン面接では「マイクの不調」を理由に音声での会話を避けるなど、信頼性を大きく損なう行為が後を絶ちません。

被害の連鎖と影響

サイバー攻撃による被害は、単発の事件では済みませんでした。 その後も年に一度程度の頻度で同様の攻撃が発生し、サーバーが凍結されたり、ウェブサイトが消滅したりする事態が続きました。

この後の始末が本当の修羅場でした。 消失したサイトの復旧、顧客への説明、代替システムの緊急構築、セキュリティ対策の見直しなど、膨大な作業が発生しました。 予定していた案件も全て中断せざるを得ない状況となり、事業継続性に深刻な影響を及ぼしました。

地方での実情

こうした事例の中でも、特に地方における開発現場の実情には、より深い問題を感じています。 FacebookやWordPressがもてはやされていた2012年頃、とある地方の業者が「WordPressの伝道師」としてウェブ制作を請け負いました。 しかし、納品されたのはプレーンなWordPressをインストールしただけのVPS。実質的に何も作っていなかったのです。

また別の案件では、WordPressによるサイト制作を発注したものの、受託者に技術的な力量がありませんでした。 「担当者がインフルエンザに罹った」「環境が整っていない」などと、納期をずるずると先延ばし。 納品を催促すると、形ばかりのサイトが届けられましたが、とても使い物になるものではなく、前払いした費用も戻らず、結局自分ですべて作り直すことになりました。

私自身は若い頃、富士通の制御系システムのプロジェクトに従事し、無停止装置など高度な要件を満たす厳しい現場で鍛えられました。 そうした現場では、エンジニアリングの基礎と、責任の重さを自然と学ぶことができました。

しかし、地方に行くとそのような環境は極めて稀です。 多くのエンジニアは下請けとして部分的な業務に従事しており、「単体テスト5年」といったような経歴が当たり前になっています。 要件定義から運用までを一貫して担当した経験のある人材は、ほとんどが若い頃に都市部で大企業の案件に関わっていた人たちです。

結果として、地方ではエンジニアリングのスキルが共有されず、人間関係とローカルな商圏だけで案件が回るようになります。 この環境では、「厳しいビジネス感覚」よりも、「空気を読むこと」が求められます。 そのため、私のように都市部で訓練され、空気を読まずに筋を通すタイプの人間は、都合のいい存在として利用され、結果的に泣き寝入りすることになります。

こうした背景から、私は地方の案件を絶対に請けないと決めています。 地方の経済的ヒエラルキーにも属さないと心に決めました。

業界の構造的な闇

WordPressの技術的な課題に加え、業界全体として深刻な構造的問題が存在しています。 驚くべきことに、システム開発の基本さえ理解していない人々が、平然とプロジェクトを受注している現実があります。 エンジニアリングの概念が完全に欠落した環境が、いつの間にか「当たり前」になってしまっているのです。

一方で、モラルの欠如も深刻です。 連絡が取れなくなる、約束を守らない、虚偽の情報を提供するなど、ビジネスとしての基本的な信頼関係を損なう行為が日常的に発生しています。 このような状況下で、クライアント企業は知らず知らずのうちにリスクにさらされています。

結論

この記事で述べた問題は、氷山の一角に過ぎません。 業界の闇は、想像以上に深く広がっています。 特に中小企業向けの開発現場では、技術力の欠如とモラルの低下が常態化しており、その実態は深刻さを増す一方です。

この問題の詳細については、別の記事で深く掘り下げていく予定ですが、ここでは現状を理解し、警鐘を鳴らすことに留めたいと思います。 発注側も受注側も、健全な開発環境を構築するための意識改革が求められています。