日本向けオフショア開発の終焉 - 25年間続いたモデルの構造的限界
よくある質問 (FAQ)
日本のオフショア開発モデルが終焉を迎えている理由は?
中小企業でオフショア開発の活用が減った理由は?
オフショア開発が機能しなくなった最大の理由は?
オフショア開発のコストはどう変化したのか?
AIがオフショア開発に与えた決定的変化とは?
日本のIT人材不足の現状は?
2025年、ついに「その時」が来た
日本のIT業界が25年間続けてきたオフショア開発モデルが、静かに、しかし確実に終わりを迎えている。
2000年代初頭、「コスト削減の切り札」として始まったオフショア開発。 しかし四半世紀が経過した今、このモデルは構造的な限界に直面している。 日経コンピュータの2024年12月の特集では、日本企業のオフショア開発が「コスト削減」から「IT人材不足の解消」へと目的がシフトしていることが明確に報告されている。
構造的変化の実態
2025年のオフショア開発市場では、「コスト削減」から「戦略的リソース確保」への明確なシフトが確認されている。 特に大企業を中心に、ITリソースの確保が目的として強調され、単純なコスト削減ニーズから脱却している。
中小企業での「静かな終焉」
特に注目すべきは中小企業での変化だ。 100名以下の企業の割合は昨年の62%から26%へと大幅に減少している。 円安の状況下でオフショア開発の活用の勢いに陰りが見える状況だ。 これは「コスト削減のニーズが大きい中小企業」が、もはやオフショア開発にコストメリットを見出せなくなっていることを示している。
一方で、5001名以上の大企業の割合は14%から22%に上昇しており、大企業ではアウトソースに限らず、業務提携や自社開発拠点設立、M&Aまで視野に入れた戦略的活用に移行している。
「ただ安いから」という単純な理由だけで開発を委託する時代は、もはや終わりを迎えつつある。
オフショア開発が機能しなくなった4つの理由
1. エンジニアリングを教える人がいなくなった
最大の問題は、日本側にエンジニアリングを理解している人材が枯渇したことだ。
製造業では、熟練工の高齢化により「経験と勘」に基づく貴重な技術が失われつつある。 IT業界でも同じ現象が起きている。 1990年代に現場で実装を経験した世代は、2025年の今、定年退職の時期を迎えている。 彼らは品質管理、設計思想、保守性といったエンジニアリングの本質を身体で理解していた最後の世代だった。
現在の日本では、エンジニアを教育できる経験やスキルを持った社員が不足している。 経験が浅い社員ばかりでは上手く教えられず、新人が充分なスキルを身につけられない。 2000年代以降に育った世代は、PMBOKは知っていても、なぜそのコードが「良いコード」なのかを説明できない。 管理はできても、技術的な指導ができない。
結果、オフショア先への技術移転は表面的なものに留まり、品質問題は25年経っても解決していない。
2. 人月商売の限界
オフショア開発の本質は「安い人件費で人月を確保する」ビジネスモデルだった。
しかし現実は厳しい。 人月単価の上昇圧力継続により、世界的なIT人材需要の高まりを受け、オフショア先各国のエンジニア人件費は上昇傾向が続いている。 ベトナムのIT人材の給与は年率10-15%で上昇し続けている。 インドでも優秀なエンジニアの獲得競争により人件費は急激に上昇。 特に優秀なシニアエンジニアや先端技術人材の単価は、日本との差が縮小する可能性も指摘されている。
さらに2022年以降の円安進行により、ドル建てやユーロ建てでの支払いが増加し、実質的なコスト削減効果は大幅に減少している。 一部の企業では、オフショア開発のコストが国内開発と同等、あるいはそれ以上になるケースも報告されている。
それでも品質が向上していれば問題はなかった。 だが現実は、25年前と同じ「仕様書通りに作るだけ」のレベルに留まっている。 コミュニケーションロスが品質課題の根本原因となっており、仕様の誤解や認識のズレによる品質低下が続いている。
3. AIがもたらした決定的な変化
生成AIの登場が、オフショア開発にとどめを刺した。
単純な実装作業なら、AIの方が速く、正確で、24時間働ける。 しかも日本語で直接指示できる。 コミュニケーションコストもゼロだ。
「仕様書通りに作る」だけの開発なら、もはや人間に頼る必要はない。 オフショア開発の存在意義そのものが問われている。
2025年の市場では、「コスト重視」から「技術力・対応力重視」へのシフトが進んでおり、単純な受託開発からより高付加価値の開発への移行が確認されている。 これは従来の「安価な労働力の確保」という発想からの根本的な転換を意味する。
4. ノーコード・ローコードの誤解が生んだ混乱
AIによるノーコードやローコードはこの問題を解決すると思った人もいるだろう。 敢えて言おう、素人である、と。
それはプログラミングの話であり、エンジニアリングではない。 プログラミングは技術であり、エンジニアリングは思想である。 ノーコードやローコードで技術が不要になっても、エンジニアリングという思想は無くならない。 むしろ、より重要になる。
構造的な問題の深刻さ
Linux Foundationの2025年レポートによると、日本の組織の70%以上がクラウドなどの主要分野で人材不足に陥っている。 これは他の地域(47%)と比べて著しく高い。 経済産業省の予測では、2025年には約79万人のIT人材が不足するとされている。
この人材不足は、単に頭数の問題ではない。 エンジニアリングを理解し、技術的な判断ができる人材の不足だ。 オフショア開発に依存してきた25年間で、日本は最も重要な資産を失った。
終焉と新たな始まり
25年間続いたコスト削減を主目的とするオフショア開発モデルは、静かに、しかし確実に終わりを迎えている。 現在進行しているのは単なる市場の調整ではなく、IT業界における根本的なパラダイムシフトだ。 この「その時」は確実に到来している。技術的な深さと品質を重視する新しい時代への移行が始まっている。
SES業界の現実逃避
しかし、SESを主力事業とする会社はAIを黙殺している。
「AIを勉強しないとなあ、と思ってるんですよ。」
そう言いつつ、AIを遠ざけている。AIがSESのビジネスモデルを破壊することを、うすうす理解しているのだろう。 だからこそ、業界全体でAIを無視し続けている。無かったもの、無関係であるかのように振る舞う。
営業現場でひしひしと感じたこの空気が、SES業界の終焉の始まりだと、まざまざと実感させられた。