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エンジニアリング

エンジニアリング思想の喪失 - プログラミングとの決定的な違い

エンジニアリング思想の喪失 - プログラミングとの決定的な違いのイメージ

よくある質問 (FAQ)

プログラミングとエンジニアリングの決定的な違いは何ですか?

プログラミングはHOWの領域でコードを書く技術や構文の理解、APIの呼び出し手法に焦点を当てます。一方、エンジニアリングはWHYの領域で、なぜその設計にするのか、5年後の保守性、システム全体の整合性、障害時の影響範囲の制限など、より深い思考を必要とします。

ノーコード・ローコードツールはプログラミングの民主化をもたらしたのでは?

民主化されたのはコーディングという「作業」であって、エンジニアリングという「思考」ではありません。誰でも「動くもの」を作れるようになりましたが、スケーラビリティの問題、カスタマイゼーションの制約、技術的負債といった限界があり、複雑で高需要なアプリケーションには適していません。

AIコーディングツールを使えばエンジニアは不要になりますか?

AIは「熱心だが経験不足のジュニア開発者」のように振る舞い、常時監督と修正が必要です。さらに「知識のパラドックス」により、AIは経験豊富な開発者により多くの恩恵をもたらします。AIが生成したコードの品質を判断し、システム設計や建築的思考を行える能力は人間固有のものです。

なぜPMBOK第7版の変更に多くの人が対応できないのですか?

PMBOKを「暗記すべきプロセス集」として学んだだけで、その背後にある思想を理解していなかったからです。49のプロセスを覚えることと、なぜそのプロセスが必要かを理解することは全く別の次元の話で、これはコードを書けることとなぜそのコードを書くべきかを理解することの違いと同じ構造です。

エンジニアリング思想とは具体的に何を指しますか?

単なる技術的スキルではなく、問題解決への思考プロセス、品質に対する哲学、保守性への配慮といった根本的な考え方です。これらはプログラミング言語やツールに依存しない普遍的な価値観で、要件から将来の拡張性、保守性、他のエンジニアによるサポートまでを考慮した設計思想が含まれます。

プログラミングとエンジニアリングの決定的な違い

プログラミング:HOWの領域

  • コードを書く技術
  • 構文を理解する能力
  • APIを呼び出す手法

エンジニアリング:WHYの領域

  • なぜその設計にするのか
  • 5年後の保守性をどう担保するか
  • システム全体の整合性をどう保つか
  • 障害時の影響範囲をどう制限するか

プログラマーの3つの高次目標として、特定の問題を解決する読みやすく理解しやすい保守可能で拡張可能なコードを書くことが挙げられている。 これらはまさにエンジニアリング思想の核心だ。

ノーコード・ローコードツールは「プログラミングの民主化」と謳われたが、これは完全な誤解だ。 民主化されたのはコーディングという「作業」であって、エンジニアリングという「思考」ではない。

PMBOKの変遷が示す同じ問題

興味深いことに、プロジェクトマネジメントの世界でも同じ現象が起きている。

PMBOK第7版では、従来の成果物をきっちり届けることを目的とした予測型アプローチから、価値を届けることが目的の適応型アプローチに大きく変更された。 しかし、この変化に対応できる技術的な深い理解を持つ指導者が不足している。

なぜ対応できないのか?それは、PMBOKを「暗記すべきプロセス集」として学んだだけで、その背後にある思想を理解していなかったからだ。 49のプロセスを覚えることと、なぜそのプロセスが必要かを理解することは、全く別の次元の話だ。

これは、コードを書けることと、なぜそのコードを書くべきかを理解することの違いと全く同じ構造だ。

エンジニアリング思想の欠如という根本問題

オフショア開発の最大の失敗は、エンジニアリング思想を伝えられなかったことだ。

真のエンジニアリング能力とは、単なる技術的なスキルではない。 問題解決への思考プロセス、品質に対する哲学、保守性への配慮といった根本的な考え方だ。 これらはプログラミング言語に依存せずツールにも依存しない普遍的な価値観だ。

エンジニアの思考は、要件を見て「A、B、Cも実行する必要がある文脈でX、Y、Zを実行する必要がある」と考えることだ。 これには、将来の拡張性、保守性、他のエンジニアによるサポートを考慮した設計思想が含まれる。

真のエンジニアは、コードを急いで書く前に立ち止まって「なぜ」を問う。 彼らはコードからコンテキストへ個人のコードからシステム全体へ、そして動作するコードから正しい問題の解決へと視点を転換する。

ノーコード・ローコードが生む新たな問題

素人がノーコードツールで「動くもの」を作れるようになった。 しかし、それは「動けばいい」レベルの産物だ。

ローコード・ノーコードプラットフォームは開発サイクルを最大10倍高速化し、開発コストを60%削減できる。 しかし、これらのツールには重要な限界がある:

  • スケーラビリティの問題:複雑で高需要なアプリケーションでは柔軟性と堅牢性に限界
  • カスタマイゼーションの制約:大規模実装では長期的な品質と保守性にリスク
  • 技術的負債:表面的な解決策に留まり、根本原因への対処ができない

「コードモンキー」問題として知られる現象がある。 これは、事前定義されたレシピに従うだけで、批判的思考や創造性を発揮しないエンジニアを指す。

AIコーディングの限界と知識のパラドックス

GitHub CopilotやCursor、ChatGPTでコードを生成できる。 しかし、生成されたコードが「なぜ良いのか、悪いのか」を判断できなければ、ノーコードと同じ問題に陥る。

AIツールは「熱心だが経験不足のジュニア開発者」のように振る舞い、迅速にコードを生成できるが、常時監督と修正が必要だ。 AIは過去のパターンから最も確率の高いコードを生成するだけ。 エンジニアリング判断はできない。

さらに興味深いのは**「知識のパラドックス」**だ。 AIが経験豊富な開発者により多くの恩恵をもたらすという現象である。 シニア開発者はAIを活用して既存の知識を加速させ、アイデアを迅速にプロトタイプ化できる。 一方、ジュニア開発者は不正確な解決策を受け入れ、重要な考慮事項を見落とし、完全に理解していない脆弱なシステムを構築するリスクがある。

エンジニアリングがより重要になる理由

1. 複雑性の増大

システムが簡単に作れるようになった分、より複雑な要求が生まれる。 複雑性を制御できるのはエンジニアリング思想だけだ。

2. 品質の差別化

誰でも「動くもの」が作れる時代。 「10年動き続けるもの」を作れるのがエンジニアだ。

3. AIとの協働

AIコーディングの時代において、創造的で分析的な思考—何を構築するか、どう構造化するか、なぜそうするか—は確実に人間の領域に残っている。 AIは生産性の「ターボブースト」を提供するが、ソフトウェアエンジニアリングの困難な部分である残りの30%には、訓練された思慮深い開発者だけが持つスキルが必要だ。

4. システム設計と建築的思考

技術の自動化が進む中で、エンジニアリング思想こそが人間の価値を決定する要因となっている。 ツールは進歩しても、システム設計と建築的思考品質への深い理解長期的な視点での問題解決能力は依然として人間固有の能力だ。

誰でもコードを生成できる時代だからこそ、「正しいコード」を見極められるエンジニアリング思想が決定的に重要になる。 プログラミングという技術は自動化される。 しかしエンジニアリングという思想は、人間にしかできない。

ノーコード・ローコード・AIコーディングは、エンジニアリング不要論を加速させた。 しかし、この理解の有無が、真のエンジニアと単なるツール使用者を分ける決定的な境界線となっている。 これを理解できない人々が「素人」なのだ。