メニュー

公開日:
15 min read
技術革新

AIは本当に開発を遅くするのか?〜天才でなくても開発できる時代の真価〜

AIは本当に開発を遅くするのか?〜天才でなくても開発できる時代の真価〜のイメージ

よくある質問 (FAQ)

METR調査で「AIが19%遅い」という結果が出ましたが、これは正確ですか?

METR調査は1〜2時間の短期タスクで測定されており、実際の開発現場での長期的効果を評価できていません。システム開発はマラソンのような長距離作業であり、短期実験で全体を判断するのは適切ではありません。長期導入事例では30-50%の生産性向上が報告されています。

AI駆動型開発とAI拡張型開発の違いは何ですか?

AI駆動型開発はAIに開発を任せきりにする手法で、「70%問題」(70%まで作れるが残り30%で苦労する)に陥りやすくなります。一方、AI拡張型開発は人間とAIが協働し、人間が設計と品質の責任を持ち、AIが処理能力を提供する手法です。エンジニアリング的な判断は人間が行うため、より持続可能な開発が可能です。

実装の民主化とは具体的に何を指しますか?

以前は天才プログラマーがいなければ実装できなかった機械学習アルゴリズム、複雑なデータ処理パイプライン、高度な並列処理などが、AIとの対話で実現可能になったことです。天才を探して高額で契約しなくても、自分のアイデアを実現できる革新的な変化を指します。

AIを使った開発で品質の問題は起きませんか?

AI駆動型開発では品質問題が発生しやすいのが事実です。しかし、AI拡張型開発では人間が設計と品質管理の責任を持つため、AIの「知識豊富だが経験不足」という弱点を人間の経験で補完できます。重要なのは、AIに任せきりにするのではなく、適切な協働関係を築くことです。

「70%問題」とは何ですか?

AIが開発タスクの70%までは作成できるが、残り30%で大きく苦労する現象です。これはAI駆動型開発の典型的な失敗パターンで、保守性、拡張性、性能、セキュリティといったエンジニアリング観点が欠落したまま「動くコード」だけを求めることで発生します。

長期的にAI開発を導入した企業の成果はどうですか?

ZoomInfo社では満足度72%、国内SaaS企業ではコーディング時間50%削減、Cisco Securityでは定型作業で30-40%時短を実現しています。重要なのは、これらが短期的な効果ではなく持続可能な改善であることです。

AI開発に否定的な意見についてはどう考えますか?

多くの否定的意見はAI駆動型開発の失敗例に基づいています。適切なAI拡張型開発を実践すれば、長期的な生産性向上と実装の民主化という大きな価値を得られます。短期的な数字だけで判断するのではなく、技術革新の本質を理解することが重要です。

なぜ開発者は「20%速くなった」と感じたのに実際は「19%遅かった」のですか?

これは「生産性の幻想」と呼ばれる現象です。AIが退屈な作業を代行することで開発者の疲労が軽減され、より創造的な作業に集中できるため、体感的には生産性が向上したと感じます。しかし短期実験では、この疲労軽減効果や長期的な集中力維持といった要素が測定されません。

2025年春、AI活用に関する衝撃的な研究結果が発表されました。METR(Model Evaluation and Threat Research)が経験豊富な開発者16名を対象に実施した実験で、AIツールを使用した場合、作業完了までの時間が平均19%増加したというのです。

しかも興味深いことに、開発者自身は「20%速くなった」と感じていました。この40%もの認識のズレは、私たちが陥りやすい「生産性の幻想」を示しています。

この結果を受けて、多くのメディアやSNSでは「AIは結局役に立たない」「人間の方が優秀」という論調が広がりました。

しかし、この実験設計には根本的な問題があります。1〜2時間の短期タスクで、実際の開発現場における長期的な効果を測定しようとしているのです。

短距離走でマラソンランナーを評価することの愚かさ

システム開発は陸上競技で言えばマラソンや競歩のような長距離種目です。エンジニアは人間ですから、常に同じテンション、同じモチベーションで作業できるわけではありません。

METRの実験は1〜2時間で完了する短期的なタスクで測定されました。これは100m走のタイムでマラソンランナーの実力を判断するようなものです。

実際の開発現場で重要なのは:

  • 長期間にわたる集中力の維持
  • 退屈な繰り返し作業からの解放
  • 認知負荷の軽減による持続可能性
  • チーム全体の生産性向上

これらの要素は、短期的な計測では一切評価されません。

実装の民主化:天才でなくても開発できる時代が来た

METRの実験や多くの議論が見落としている、もっと重要な点があります。それは実装の民主化です。

以前は天才プログラマーがいなければ実装できなかった機能も、今はAIが難なく実装します。機械学習アルゴリズム、複雑なデータ処理パイプライン、高度な並列処理など、専門知識が必要だった実装が、AIとの対話で実現可能になりました。

これは単なる効率化の問題ではありません。天才を探して高額で契約しなくても、自分のアイデアが実現できるという革新的な変化なのです。

私自身、モダンな開発環境もAIモデルの知識もない状態から、FX取引予測AIモデルを開発できたのは、まさにこの恩恵です。以前なら「そんなの無理だ」と諦めていたでしょう。

しかし、「設計さえできれば実装は下流工程」という従来の認識では、この革新性が理解されにくいのです。実装を軽視する文化が、AIがもたらす真の価値を見えなくしています。

実装こそがアイデアを現実にする唯一の手段であり、その門戸が広く開かれたことの意味を、私たちはもっと深く理解すべきです。

現場からの声:AI拡張型開発で8ヶ月でFX予測AIを完成

私自身の経験をお話しします。

Claude3やChatGPT3.5の時代、AIは関数一つ程度しかコーディングできない貧弱なものでした。それでも、モダンな開発環境もAIモデルの知識もなかった私が、8ヶ月かけてFX取引予測AIモデルを開発できました。

現在では、AI拡張型開発のワークフローが定着しています:

  1. 人間が設計の大枠を決め、AIと相談しながら詳細化
  2. 設計書に基づいてAIが実装、人間が経験で判断
  3. エンジニアリング的な誤りを人間が修正

私は相変わらずコードは書けません。しかし、C++、アセンブラ、SQL、UMLを長年使ってきた経験から、どんな言語でもコードを読むことはできます。基本的なアルゴリズムは今も昔も変わらないからです。

この経験が、AIの「知識豊富だが経験不足」という弱点を補完する鍵となっています。

AI活用への否定的意見の実態

調査によると、AI活用には以下のような問題が指摘されています:

1. コード品質の低下

GitClearの調査では、2億1100万行のコードを分析した結果、2023年にコード再利用率の顕著な低下が観察されました。また、AI生成コードのデバッグに、人間が書いたコードより多くの時間を費やしているという報告もあります。

2. 「70%問題」とAI拡張型開発の重要性

「AIは70%までは作れるが、残り30%で苦労する」という現象が報告されています。

これはAI駆動型開発の典型的な失敗です。初心者はエンジニアリングを全く考慮しません。保守性、拡張性、性能、セキュリティといった観点が欠落したまま、とりあえず「動くコード」だけを求めます。そしてAIも同様に、知識は豊富ですが経験が足りない新人エンジニアととても似た挙動をします。エンジニアリングの観点では誤った判断をしがちなのです。

だからこそ、私が実践しているのは**AI拡張型開発(AI Augmented Development)**です。これはAI駆動型開発とは似て非なるものです:

  • AI駆動型:AIに開発を任せきり → 70%の壁にぶつかる
  • AI拡張型:人間とAIが協働 → 人間の経験とAIの処理能力を組み合わせる

この違いを理解せずにAIを使うと、初心者は特に最後の30%で無限ループに陥りやすくなります。

3. スキルと動機づけの低下

研究によると、AIと協働した後、AI支援なしのタスクでは内発的動機づけが平均11%低下、退屈感が20%増加したという結果が出ています。また、若手開発者が考える力や学習する力を失いつつあるという懸念も示されています。

4. AI駆動型開発の限界

これらの問題の多くは、AI駆動型開発の限界から生じています。AIに開発を任せきりにすると、AIは新人エンジニアのように「知識はあるが経験に基づく判断ができない」状態で動作します。

一方、AI拡張型開発では:

  • 人間が設計と品質の責任を持つ
  • AIは処理能力を提供する「優秀なアシスタント」
  • エンジニアリング的な判断は人間が行う
  • AIの誤りを経験で補正できる

この違いを理解することが、AI時代の開発成功の鍵となります。

なぜ理解のギャップが生まれるのか

AI拡張型開発を実践するエンジニアの視点

  • 開発は人間中心のロングラン作業だと理解
  • AIは「知識豊富だが経験不足な新人」として扱う
  • 人間の経験とAIの処理能力の協働が重要
  • 疲労軽減や創造的作業への集中が実現できる

AI駆動型に囚われた人々の視点

  • AIに全てを任せれば良いと考える
  • 数字や結論のわかりやすさに飛びつく
  • AIの限界を理解せずに過度な期待を持つ
  • 「19%遅い」という数字だけで全否定する

実務での長期的成果が示す真実

1年以上の長期導入事例では、まったく異なる結果が報告されています:

  • ZoomInfo社(400名以上):満足度72%、提案受け入れ率33%
  • 国内SaaS企業:コーディング時間50%削減、新人立ち上げ期間を3ヶ月→1ヶ月に短縮
  • Cisco Security:定型作業で30-40%時短、全体工程で33-36%削減

重要なのは、これらが「持続可能な改善」であることです。

素人の判断が生む危険性

現場を知らない人々が限定的な情報で「AIは使えない」と結論づけることは危険です。

同様に危険なのは、AI駆動型開発に過度な期待を持つことです。「AIに全部任せれば良い」という安易な考えは、70%問題に直面して挫折します。

そして最も残念なのは、実装の民主化という革新を見逃すことです。

誤った認識が広まれば:

  • AI駆動型の失敗例だけが注目される
  • AI拡張型開発の可能性が見過ごされる
  • 天才でなくてもアイデアを実現できる時代の価値を理解できない
  • 企業が適切なAI活用戦略を立てられない
  • 技術革新の機会を逸する

重要なのは、AIとの適切な協働方法を理解し、実装の価値を再認識することです。

まとめ:AI拡張型開発という新しい道

METRの実験は「厳密に設計」され「計測精度」も高いものでした。しかし、短期的なタスクで長期的な効果を測ることはできません。

より重要なのは、以下の3つの視点を理解することです:

  1. 実装の民主化:天才でなくてもアイデアを実現できる時代
  2. AI駆動型開発とAI拡張型開発の違い:AIに任せきりではなく協働する
  3. 長期的な視点:短期的な数字ではなく持続可能な改善を評価する

私の経験では、AI拡張型開発により:

  • 設計に集中できる時間が増えた
  • 実装の負担から解放された
  • より本質的な問題解決に注力できるようになった
  • AIの判断ミスを経験で補正できる
  • 天才プログラマーなしでも高度なシステムを構築できた

「コードは書けないが読める」という立場から、AIをスタッフとして活用することで、従来では不可能だった開発が可能になりました。これは、AIに支配されるのではなく、AIと協働する新しい開発スタイルです。

そしてこの変化こそが、技術の民主化がもたらす最大の価値なのです。

現場の実感を大切にし、長期的な視点で評価することこそが、真の技術革新につながるのです。