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技術革新

技術用語の「モヤモヤ」を解消する旅 - レンダリングの謎を解く

技術用語の「モヤモヤ」を解消する旅 - レンダリングの謎を解くのイメージ

世の中には様々な言葉が溢れています。専門用語も日常用語も入り混じって、特にIT分野では新しい言葉が日々生まれているような印象を受けます。その中には、日本語訳に首をかしげることも少なくありません。

「発火」という言葉との格闘

代表的なのは「イベントが発火する」(fire event)という表現です。30年前に読んだプログラミングの本で初めて出会い、その理解に苦心したことを今でも鮮明に覚えています。

なるほど、イベントが発生する。火がつく。であれば、日本語なら「着火」ではないでしょうか。日本人なら「尻に火が付く」と言ったほうがはるかに分かりやすい。火をつけるならチャッカマンだって有名ではないですか。なぜ「発火」なのか、そもそも「発火」という他に適切な訳がなかったのか。もっと語源を調べて、ウィットの利いた翻訳が当時されていれば、いまだにわかりづらい「発火」などと言われることもなかったような気がします。

しかし、改めて考えてみると、“fire”は銃やミサイルを発射するときにも使われる単語で、「トリガー(引き金)を引く」ことを意味します。この意味を知ると、イベントを「発火させる」という表現もしっくりときます。コードの中の特定の条件がトリガーとなって、イベントという「弾」が発射される――そう考えると、“fire”という用語の選択は理にかなっていたわけです。

ちなみに最近、この用語に関する興味深いエピソードを読みました。この用語を考案したエンジニアには、手持ち無沙汰なときにライターの火をつけては”fire”とつぶやく癖があったそうです。その行動からイベントを「発火させる」という発想が生まれたという逸話です。真偽はともかく、技術用語の由来を考える上で面白い話ですね。

そういえば、Windowsのメッセージクラッカーのメッセージフォワーディングという機能も思い出します。これは単なる「メッセージ転送」なのですが、どういうわけか「前方参照」と誤訳され、その後の文章が全く意味不明で理解できなかったことがありました。数年後、著名なエンジニアが書いた、この件を解説した記事を読んで納得したことを覚えています。

レンダリングという20年来の謎

私の中で「なんとなくわかった気になっているけど、実はよくわかっていない」代表格が「レンダリング」でした。

今では「データや命令を視覚的な出力に変換するプロセス」と簡潔に定義できますが、当時の私はその定義すら調べようとしませんでした。自分の業務に直接関係なかったため、興味が湧かなかったのです。

最初にこの言葉に出会ったのは約20年前、3D CG制作の現場でした。「シェーダーを使ってレンダリングすると24時間かかる」という会話を耳にしました。CADで3Dモデルを作った時点でCGはできているのに、なぜさらにレンダリングが必要なのか?今から考えると、CG制作者たちもレンダリングをコマンドとして感覚的に使っていただけだったような気がします。

実は後年、レンダリングの定義を知る機会がありましたが、理屈としては分かっても感覚としてピンときませんでした。まるで酸味を知らない人に「酸っぱさ」を説明するような、そんな歯がゆさがありました。

10年ブランクを経て

10年近く開発現場を離れて復帰した4年前、レンダリングという言葉は至る所で使われていました。「テンプレートをレンダリングする」「レンダリングエンジン」といった具合です。私の中では「レンダリング=絵を描くこと」というイメージが固まっていたため、なぜウェブサーバーが「レンダリング」するのか、さっぱり理解できませんでした。

SVGとの奇妙な出会い

似たような経験がSVGでもありました。最初の出会いは20年ほど前。某大手進学塾の全国模試における成績処理システムでした。全国から届く膨大な量の受験生のデータを処理し、評価データを生成して成績処理を完了させ、その結果を1週間以内に生徒一人一人に返却するという、非常にシビアな業務でした。

当時経営していた会社で、この案件の要件定義から開発、運用まで一貫して担当していました。成績処理システムの中核を担当し、受験生の成績データを処理して個別のSVGデータを生成し、印刷担当会社へネットワーク経由で送信するのが私たちの役割でした。マークシートの読み取りやデータの印刷、配送については、全国規模で展開している別の大企業が担当していました。

今でこそクラウドが当たり前ですが、当時は自社のサーバールームにブレードサーバーやラックサーバー、タワー型サーバーを多数設置して運用管理をしていました。ハードウェアの選定から、ネットワーク構成、運用監視まで、すべて自分たちで行う必要があったのです。

SVGデータの生成には、印刷担当会社から提供されたテンプレートとレンダリングシステムを利用しました。24時間以内に処理を完了させないと納期に間に合わないため、アプリケーションの処理速度だけでなく、サーバーの性能やネットワークの安定性まで、すべての要素を最適化する必要がありました。今で言うところのDevOpsですが、当時はまだそんな言葉すら一般的ではありませんでした。

当時は「なぜXMLやブラウザで扱えるSVGが印刷データとして使えるのか?」「どうやって大量の成績データを効率的に印刷用データに変換できるのか?」と疑問だらけでした。しかし今となっては、アプリケーション開発からインフラ構築、運用管理までを一気通貫で担当するという、まさにDevOpsの先駆け的な経験だったと感じています。最近のエンジニアとの会話で、PCのハードウェア構成すら知らない人が増えていることに驚きますが、それだけインフラ環境が抽象化され、使いやすくなったということなのでしょう。

AIが解いてくれた謎

この長年の謎を解いてくれたのは、意外にもAIでした。社内のロゴデザインについて相談した際、AIがSVGコードを書き、それを画像化する過程を見せてくれたのです。

その瞬間、「これがレンダリングか!」と腑に落ちました。つまり、コンパイラーがソースコードを実行可能なプログラムに変換するように、レンダリングとは「データや命令を視覚的な出力に変換するプロセス」なのだと理解できました。

この理解を得て、サーバーサイドレンダリングの概念も明確になりました。サーバー側でHTMLを生成し、完全な形でクライアントに送信する - これもまた一種のレンダリングだったのです。それまで断片的だった知識が、この経験を通じて実感を伴う理解へと昇華したのです。

やっぱり言葉は正確に理解しよう

技術用語の中には、なんとなく使っているけれど本質的な理解には至っていないものが少なくありません。日々の業務に追われる中で、こうした言葉の本質を考える時間を持つのは贅沢かもしれません。しかし、時には立ち止まって言葉の意味を掘り下げてみることで、新しい発見があるのかもしれません。