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技術文化史IT業界の構造的課題と人材育成の未来:日本のデジタル競争力を考える

構造的問題の本質
デフレ経済と産業構造
1990年代以降、日本のIT投資は停滞し、ICT革命に乗り遅れた。 ICT製造部門の生産性は他の先進国と遜色ないものの、ICTを利用する産業での生産性が伸びていない。 長期のデフレにより、企業はコスト削減を最優先し、人材育成や技術投資よりも、短期的なコスト効率を重視してきた。
この状況は、人月商法やオフショア開発への依存を加速させ、技術力や実装能力の国内空洞化を引き起こした。 さらに、多重下請け構造が根付いたことで、IT業界の健全な発展が妨げられている。
社会保障制度と世代間格差
日本の低インフレ政策は、確かに年金受給者の実質的な購買力を維持することには成功した。 しかし、その代償として若い世代に大きな負担を強いることになった。
まず、教育費の私費負担が著しく増大している。 国立大学の授業料は継続的に値上げされ、奨学金制度は実質的な教育ローンと化している。 その返済負担は若者の人生設計を大きく狂わせ、 教育を受ける機会そのものが経済格差によって左右される事態となっている。
雇用環境も大きく悪化している。 非正規雇用の増加と実質賃金の低下により、将来設計が立てられない不安定な雇用が常態化している。 特に深刻なのは、技術習得の機会が失われていることだ。 これは個人のキャリア形成だけでなく、日本の産業競争力にも影響を及ぼしている。
さらに、世代間の資産格差も拡大している。 資産は老年世代に偏在し、若年世代は資産形成の機会すら失いつつある。 住宅取得の困難化は、将来への不安を助長し、消費の抑制を引き起こしている。
このように、高齢者の生活を守る政策が、逆に若い世代の機会を奪い、 社会の持続可能性そのものを危うくしている。 結果として、一部の若者は過酷な労働環境や違法性の高い仕事に追い込まれ、 さらには性産業への従事を余儀なくされるなど、深刻な社会問題を引き起こしている。
この構造的な歪みは、単なる世代間の対立という問題を超えて、 日本社会の未来そのものを脅かす重大な課題となっている。 高齢者の生活保障と若者の機会確保を両立させる新たな社会システムの構築が急務だが、 既得権益の壁は厚く、改革は遅々として進んでいない。
このような世代間の不公平は、IT業界における人材育成や技術革新の停滞にも直接的な影響を与えており、 業界の構造的問題の根底にある要因の一つとなっている。
国際競争力の現状
2023年にヒューマンリソシアがITエンジニアの給与を国別に調査した結果は次の通り。
- スイス(102,839米ドル)
- アメリカ(92,378米ドル)
- イスラエル(76,500米ドル)
… - 中国(36,574米ドル)
- 日本(36,061米ドル)
また1年前と比較したITエンジニアの給与増加率は、 約6割の国々でITエンジニアの給与が上がっているにもかかわらず、 98か国中58位の-5.9%である。
技術面では、日本のICT導入率は国際的に見て6位と比較的高い位置にあるものの、 技術者のスキル面では28位と順位が低い状況にある。 日本のエンジニアは他国と比較して労働時間が長いにもかかわらず、給与は低く抑えられている。 また、多くの企業が古い技術を使い続けており、新技術習得へのインセンティブが働きにくい環境となっている。
貧弱な開発環境に最高の成果を求める体質
例えば、日本企業の開発現場では、昔から下記のような例がよく見られる
- 開発用のPCは安価で低スペックなものを支給する
- 4KではなくFHDのモニターを使用する
- マルチモニターを使用しない
恵まれた開発環境を与えたほうが、生産性がはるかに向上する。 しかも大したコストではない。
例えば、私は老眼でもあるため、27インチのと32インチの4Kモニターを3台使っている。 PCはデスクトップで、メモリは64GB、GPUはRTX4070Ti Superだ。
とても快適である。
出張時にはVAIOと4K モバイルモニターを持ち運んで作業するが、画面が小さく、作業効率が悪い。 とてもじゃないが、開発業務はできないのが実情だ。
私の考え方は「金で買える時間は買う」である。 若い頃から、取引先、常駐先、どこもみな、開発環境が貧弱だった。 だから自腹で買った開発環境を持ち込むことが常であった。
負のスパイラル
- 低賃金→人材確保困難→オフショア依存→技術力低下→付加価値低下→さらなる低賃金
業界全体がこのような負のスパイラルに陥っている。 こんなサイクルが30年以上も続いている。 日本のIT業界に将来があるとは、私には思えない。