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技術革新

レガシーシステムの闇:保守開発者の独白

レガシーシステムの闇:保守開発者の独白のイメージ

私は今、誰かが作った古いWebシステムの保守を担当している。システムは動いている。 ユーザーは使っている。 しかし、このコードベースは私の心を蝕んでいく。 まるで誰かが書いた暗号を解読しているような、そんな日々が続いている。

システムの概要

簡単な業務システムだ。 DBからリストを読み込み、表示し、編集する。 そんなありふれた機能を持つシステムの保守を任されている。

ここで、Webアプリケーションの歴史を振り返ってみよう。

1. Ajax以前の時代

フォームの送信とページの再読み込みが基本。 シンプルだが、ユーザー体験は良くない。しかし、当時は許容されていた。

sequenceDiagram participant User as ユーザー participant Browser as ブラウザ participant Server as サーバー participant DB as データベース User->>Browser: フォーム送信 Browser->>Server: POST送信 Server->>DB: SQL実行 DB->>Server: 結果返却 Server->>Browser: HTML全体を再生成 Browser->>User: 完全な画面再描画

2. Ajaxの登場

ページの部分更新が可能に。より良いユーザー体験の実現。フロントエンドの重要性が増加。

sequenceDiagram participant User as ユーザー participant Browser as ブラウザ participant Server as サーバー participant DB as データベース User->>Browser: 部分的な操作 Browser->>Server: XMLHttpRequest Server->>DB: SQL実行 DB->>Server: 結果返却 Server->>Browser: 部分データのみ返却 Browser->>User: 該当箇所のみ更新 Note over Browser,Server: IEとその他ブラウザで<br/>実装方法が異なる時代

3. モダンフレームワークの時代

Reactに代表される宣言的UI。状態管理の整備。フロントエンド/バックエンドの明確な分離。

sequenceDiagram participant User as ユーザー participant Browser as ブラウザ participant Server as APIサーバー participant DB as データベース User->>Browser: インタラクション Note over Browser: 状態管理<br/>仮想DOM Browser->>Server: fetch API/REST Server->>DB: SQL実行 DB->>Server: 結果返却 Server->>Browser: JSON返却 Browser->>User: 最適化された<br/>DOM更新

4.フルスタックフレームワークの時代

Next.js、Astro、Nuxt.jsなどに代表される統合的なアプローチ。 サーバーサイドレンダリング(SSR)とクライアントサイドの機能を統合。 開発効率とパフォーマンスの両立を実現。

sequenceDiagram participant User as ユーザー participant Browser as ブラウザ participant Edge as エッジ participant Server as アプリケーション participant DB as データベース User->>Browser: インタラクション Browser->>Edge: ページリクエスト Edge->>Edge: キャッシュ確認 Edge->>Server: 必要に応じてSSR Server->>DB: データ取得 DB->>Server: 結果返却 Server->>Edge: HTML/JSON Edge->>Browser: 最適化された<br/>コンテンツ Note over Browser,Edge: 静的生成と動的生成の<br/>ハイブリッド

問題の本質

このシステムは、Ajaxという新技術を「知っている」が「理解していない」開発者によって作られたように見える。 削除機能だけがAjaxで実装され、他は全て従来の同期通信という中途半端な状態だ。

sequenceDiagram participant User as ユーザー participant Browser as ブラウザ participant Server as サーバー participant DB as データベース Note over Browser,Server: 検索処理(同期通信) User->>Browser: 検索条件入力 Browser->>Server: フォーム送信(POST) Server->>DB: SQL実行 DB->>Server: 結果返却 Server->>Browser: 完全なHTML返却 Browser->>User: ページ再描画 Note over Browser,Server: 削除処理(Ajax) User->>Browser: 削除ボタン押下 Browser->>Server: Ajax削除リクエスト Server->>DB: 削除SQL実行 DB->>Server: 結果返却 Server->>Browser: 削除結果返却 Browser->>Browser: ページ全体再読み込み

さらに深刻な問題がある。

  • 設計書の不在、命名規則の不統一
  • CSSがぐちゃぐちゃ
  • JavaScriptにphpを埋め込んである
  • どうしてこのようなコードを書いたのが、さっぱり理解できない箇所がある
  • 多数のコピペが存在し、同じ処理が複数箇所に散らばっている
  • ループを回さずに配列の要素を取得するなど、基本的なプログラミングの知識が欠如している箇所が多数ある
  • コードを読んでいるとめまいがする

これらの問題は、現代のWeb開発の基本原則を全て無視している。

  • 関心の分離
  • コードの再利用性
  • メンテナンス性
  • デバッグ容易性

まさに、「動けば良い」という考えが生み出した負の遺産だ。これらのコードを見ていると、まるで古代遺跡の発掘現場にいるような気分になる。しかし、考古学的な興味を持っている場合ではない。これらは現役で動いているシステムなのだ。

システム保守者として、我々は日々この混沌と戦っている。新しい機能を追加するたびに、この泥沼に足を取られる。それでも、少しずつでも改善を続けていくしかない。

「車輪を再発明するな」というプログラミングの格言があるが、このシステムは「車輪を歪な形で発明した」典型例と言えるだろう。

そして、最もむかつく頭が痛いのが多言語対応の実装だ。日本語と英語に対応しているが、英語で使用される場面は皆無。それでも全ての文字列がDBに格納され、alt2alt3といった意味不明なキーで管理されている。これは「柔軟性」という幻想が生み出した負債だ。

虚無との戦い

私は新しい機能を追加する際、あえて文字列をハードコーディングしている。これは「負債」への一つの回答だ。完璧な解決策ではないが、少なくとも新しいコードは理解可能なものにしたい。

しかし、この努力は砂浜に描いた絵のように、潮風に消されていくような虚しさを感じる。システムは動き続け、古いコードは残り続ける。私たちはこの遺産と共に生きていかねばならない。

教訓 - エンジニアリングの重要性

この経験から学べることは多い。特に重要なのは、プログラミングとエンジニアリングの違いだ。

独学でプログラミングをマスターした開発者によく見られる傾向がある。 彼らは確かにコードを書くことはできる。 プログラミング言語の文法を理解し、アルゴリズムを実装することもできる。 しかし、そこには致命的な欠落がある。それは「エンジニアリング」の視点だ。

エンジニアリングとは、単にプログラムを書くことではない。 それは以下のような考慮を必要とする:

  • コードの再利用性
  • 保守性
  • 他の開発者による可読性
  • システム全体の設計
  • 長期的な拡張性
  • チームでの開発を前提とした設計

独学者は往々にして、動くコードを書くことだけに焦点を当ててしまう。 それは車のエンジンを作ることはできても、それを量産可能な形で設計することができないようなものだ。

技術を知っているだけでは不十分なのだ。 システム設計の重要性、実際のビジネス要件に基づく実装の必要性、 保守性を考慮した意思決定の重要性。 これらは全て、プログラミングの能力とは別の、エンジニアリングとしての技術なのである。

このシステムは、まさにその警告として私たちの前に立ちはだかっている。

あなたのコードは、いつか誰かが保守することになる。 その時、その誰かの心を踏みにじることのないように。

私は今日も、このレガシーシステムの迷宮の中で、小さな改善を積み重ねていく。 それは永遠に続く戦いかもしれないが、それが私たちシステム保守者の宿命なのだろう。

他山の石

過去のコードや設計ミスは「負の遺産」だが、それを学びに変えることができれば「他山の石」になる。 独学でプログラミングを身につけた人が増え、情熱を持って現場に挑んでいるが、 プログラミングとエンジニアリングは別物だ。

エンジニアリングとは、未来の自分や他人にとって意味のあるコードを書くことだ。 ただ動くコードではなく、メンテナンスしやすく、改善しやすいコードを目指すべきだ。 それがチームの信頼を築き、より良い成果を生む。

この記事が、コードに対する見方を変えるきっかけになれば幸いだ。 エンジニアとして成長するには、他人の失敗を学びに変え、 自分の価値を高めることが欠かせない。

プログラミング歴40年以上の私も、同じ道を通ってきたのだから。