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技術革新

プログラミングのネーミング問題:現場の苦労から希望の未来へ

プログラミングのネーミング問題:現場の苦労から希望の未来へのイメージ

プログラミングの世界で、私たちは日々「ネーミング」という小さな、しかし重要な決断を行っています。 それは単なる「名前付け」ではなく、コードを通じたコミュニケーションの本質です。 特に国際的な開発環境では、何気ないネーミングが思わぬ問題を引き起こすことがあります。

特に日本の開発現場では、英語でのネーミングに対する心理的障壁が存在することが、この問題をより複雑にしています。 若い頃に仕事仲間と語り合った際の本音の会話が、この問題の本質を見事に言い表しています。 「とにかく考えるのが面倒くさい!」という率直な叫びには、多くの日本人プログラマーが共感するのではないでしょうか。

「英語は得意ではない。かといって間違えると、後でプログラムを見た人に何か言われるかもしれない。 辞書をいちいち引くのも面倒だ」という悩みは、日本のエンジニアの多くが抱える共通の課題です。 この状況に直面したとき、開発者たちは通常、二つの道のいずれかを選択します。 真面目なエンジニアは諦めて辞書を引きますが、そうでない場合は、より楽な道を選んでしまいます。

第1章:すべては教科書から始まった

1.1 運命の出会い

   void func_hoge(int hoge)
{
    int fuga = func_fuga(hoge);
}

多くの日本人プログラマーの人生は、このようなコードとの出会いから始まります。 シンプルで無害に見えるこのコードには、実は危険な罠が潜んでいます。 それは「意味のないネーミングに慣れてしまう」という罠です。

実務では、このようなコードは致命的な問題を引き起こします。 例えば、半年後の保守作業で、このコードが何をしているのか誰も分からなくなってしまいます。

1.2 現実の世界へ

   // より実践的な例
int calculate_user_age(int birth_year)
{
    int current_year = 2024;
    return current_year - birth_year;
}

この例では、関数名から目的が明確に分かります。 引数名も意味を持っています。これこそが実践的なコードの第一歩です。

第2章:ネーミングの歴史

2.1 昔:文字数制限の時代(1980年代)

   // 8文字制限時代
int cnt;    // counter
char buf;   // buffer
float tmp;  // temporary

1980年代のプログラマーたちは、8文字という厳しい制限の中で最大限の表現力を追求しました。 この時代の略語の多くは、今でも有効な「ネーミングの知恵」として生き続けています。

しかし、この制限があった時代には、今日のような国際的な開発環境特有の問題は少なかったとも言えます。 略語は確かに分かりにくいものでしたが、少なくとも不適切な意味を持つリスクは低かったのです。

2.2 現代:自由の代償

   # 過剰に説明的なネーミングの例
user_interaction_history_cumulative_data = []
customer_satisfaction_survey_response_analysis_result = {}

文字数制限から解放された現代では、逆に「説明しすぎる名前」が問題になっています。

長すぎる名前は、かえってコードの可読性を下げてしまうことがあります。

2.3 日本的な対処法の歴史

特筆すべきは、日本の開発現場で長年見られた特徴的なネーミングパターンです。 英語でのネーミングに対する心理的障壁から生まれた、これらの「対処法」は、今でも時折目にすることがあります。

   # 諦めのネーミングパターン - 実際の現場で見られた例
def yamada1(taro2):
    int suzuki3 = taro2 + 1
    return suzuki3

# ローマ字パターン - これも実際によく見られた例
def keisan_goukei(kingaku):
    total_kingaku = kingaku + 1
    return total_kingaku

このコードは、単なる例示ではなく、実際の開発現場で見られたものです。 一見すると笑い話のように聞こえるかもしれませんが、 これらは日本のプログラマーが直面してきた現実の課題を如実に表しています。

「yamada1」や「taro2」といったネーミングは、英語でのネーミングに対する不安と面倒さを回避するための、 ある意味で「創造的な」解決策でした。

また、「keisan_goukei」や「kingaku」のようなローマ字でのネーミングは、 日本人開発者にとっては理解しやすいものの、国際的な開発環境では深刻な問題を引き起こす可能性があります。

これらのネーミングパターンは、次のような問題を引き起こします:

  • コードの可読性を著しく低下させる
  • 国際的な開発環境では使用できない
  • 保守性を損なう
  • チーム開発での混乱を招く

実際、とある有名なアプリケーション(今はもうない…) の機能追加案件のソースコードは、おそるべきものでした…

   void kokubu01()
{}

int kokubu02()
{}

void kokubu03()
{}

...

こんな感じで数十個の関数が並んでいました。 何の処理をしているのか、関数内のコードを読まないと理解できない。

   int a = kokubu01();
int b = a + kokubu02(test);
kokubu03();
...

これ、何のコードだかわかりますか??? コードを書いた本人以外、分からないですよね。 しかもコメントもドキュメントもなし。 どんだけ記憶力いいんだよ!

しかし、これらの「対処法」が生まれた背景には、 日本人プログラマー特有の悩みと苦労が存在していたことを理解する必要があります。

第3章:国際的な開発における落とし穴

この問題は単なる面倒さだけではありません。 英語力の不足が思わぬ事態を引き起こすこともあります。

3.1 言語の壁

   // 国際色豊かな例
FILE* fairu = fopen("data.txt", "r");    // 日本語
char yomikomi[BUFFER_SIZE];              // 日本語
int result = fread(fairu, yomikomi, BUFFER_SIZE);  // 英語

このコードは動作しますが、日本人にも読みにくい!

  • 英語とローマ字が混在している
  • 将来の保守が困難になる

“open house”はオペンホウセ?オープンハウス??

3.2 意図せぬ不適切な表現の危険性

国際的な開発において、無意識の不適切な表現は重大な問題となります。 特に英語を母語としない開発者は、 些細なタイプミスや略語の選択が思わぬ問題を引き起こすことがあります。

   # 危険な例1:非英語話者における略語の問題
def anal_user_data():     # analyzeの略のつもり
def cum_total():          # cumulativeの略のつもり

# 危険な例2:タイプミスの例
def cunt_items(items):    # countのタイプミス:非常に不適切な意味になります

# 危険な例3:文化的配慮の欠如
def jap_count(users):     # 差別的表現

これらの問題の重大性は以下の点にあります:

  1. コードの公開時の影響

    • GitHubなどでの公開時に問題視される
    • プロジェクトの評判を損なう可能性
  2. チーム内のコミュニケーション

    • 国際チームでの不快感
    • コードレビューでの問題指摘
  3. キャリアへの影響

    • 過去のコードが後々問題になることも
    • 特にオープンソースでの活動歴として残る
  4. 業務トラブル

  • プロジェクト全体に深刻な影響を与える可能性
  • クライアントとの関係悪化
  • チーム内の信頼関係への影響
  • コードの公開時の評判リスク
   # 適切な例
def analyze_user_data():  # 略さない
def cumulative_total():   # 略さない
def count_items(items):   # 正しいスペル
def count_japanese_user(users):  # 正式名称を使用

3.3 実際の対策

  1. 安全な略語の使用
   # 略語を使う場合の安全な例
def calc_total():      # calculate -> calc (一般的で安全)
def init_data():       # initialize -> init (標準的)
def auth_user():       # authenticate -> auth (確立された用法)
  1. レビュー時の確認事項
    • 略語の使用は本当に必要か
    • 文化的な配慮は十分か
    • より明確な表現はないか

このような問題は、見過ごされがちですが、国際的な開発環境では重要な課題です。 特に下記などでは、細心の注意が必要です。

  • オープンソースプロジェクト
  • クライアントワーク
  • チーム開発

幸い、現代では様々なツールやAIの支援により、これらの問題を事前に検出し、防ぐことが可能になっています。

第4章:AIという救世主

「関数名と変数名を英語で考えるのが、ものすごく面倒くさい!」というのが、多くの日本人開発者の本音でしょう。 しかし、現代には強力な味方があります。 それが人工知能です。 適切なネーミングに悩んだとき、AIに相談することで、素早く適切な提案を得ることができます。 まさに「いい時代になった」というべきでしょう。

アイテムの数を数える関数を考えて。pythonで書くとしたら、どうネーミングしますか?解説は不要です。

python def count_items(): pass

AIは単にネーミングを提案するだけでなく、次のようなことも併せて行います。

  • スペルミスのチェック
  • 不適切な表現の警告
  • より自然な英語表現の提案

第5章:独学者への希望

5.1 GitHubという目標

   # 現代の独学者のコード
def calculate_total_price(base_price: float) -> float:
    """
    Calculate total price including tax
    """
    tax_rate = 0.1
    return base_price * (1 + tax_rate)

グローバルな開発を意識したコードは、あなたの可能性を大きく広げます。 AIという強力な味方を使えば、英語の壁を恐れる必要はありません。

まとめ:エンジニアリングの本質へ

プログラミングにおけるネーミングの問題は、単なる「名前付け」の課題をはるかに超えています。 それはシステム全体の設計品質に深く関わり、チーム全体のコミュニケーションの基盤となり、 プロジェクトの持続可能性を左右する重要な要素です。

そして何より、それはエンジニアリングの根幹を成すものなのです。

たかがネーミング、されどネーミング。適切なネーミング規則の策定と遵守は、本質的なエンジニアリング価値を生み出します。 まず、コードの意図が明確になることで保守性が向上し、将来の機能拡張が容易になり、デバッグの効率も上がります。 さらに、コードレビューが効率化され、チーム内の知識共有が促進され、新しいメンバーの学習曲線も緩やかになります。 そしてなにより、設計の一貫性が確保され、潜在的なバグの早期発見にもつながり、 システム全体のアーキテクチャがより明確になっていきます。

現代のエンジニアリングには、これらの課題に取り組むための強力な味方があります。 AIによる支援、充実した開発ツール群、そしてグローバルな知見の集積です。 しかし最も重要なのは、エンジニアリングそのものへの深い理解です。

プログラミングだけでは、真に価値のあるシステムは作れません。 エンジニアリングの視点で考え、設計し、実装する。それこそが、私たちが目指すべき本質なのです。

次回のコーディングが、あなたのエンジニアリングの新たな一歩となりますように。