ナフサショック(石油資材の供給途絶)下の新築事業 ─ 納期リスクと業者の対応力

ナフサショック(石油資材の供給途絶)下の新築事業 ─ 納期リスクと業者の対応力

不動産実務 2026.06.07 公開
#取材 #ナフサショック #コロナ禍 #納期リスク #業者選び

この記事でわかること

Q. 2026年4月から起きているナフサショックとは何ですか?
A. ナフサは原油から精製される石油化学製品の基礎原料で、樹脂・接着剤・塗料・コーティング剤など多くの住宅資材の出発点になっています。2026年4月、イラン関連の軍事緊張でホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで、日本へのナフサ供給が途絶し、TOTOが住宅用ユニットバスの受注を停止しました。原因は接着剤・浴槽コーティング剤に使うナフサ由来溶剤の不足で、LIXILやパナソニック ハウジングソリューションズの一部製品も納期未定となっています。
Q. コロナ禍の便器不足とナフサショックは同じ問題ですか?
A. 別事案です。コロナ禍(2021年9月頃)の便器不足はベトナムのロックダウンでTOTO・パナソニックの現地工場の部品調達が止まったことが原因で、LIXILにも代替受注が殺到してオーバーフローしました。一方、2026年4月のナフサショックは中東地政学による原材料そのものの供給途絶です。原因も波及範囲も異なります。
Q. 新築の納期遅延が住宅ローン金利に影響するのはなぜですか?
A. 住宅ローンの金利は融資契約時ではなく実行時点の金利が適用されます。引き渡しが3ヶ月遅れれば、その3ヶ月後の金利が適用される計算です。住宅金融支援機構のフラット35は2026年4月+0.24%、5月+0.22%と2か月で約0.46%上昇しており、借入3,000万円・35年元利均等のケースでは総返済額が300万円規模で増加しうる水準です。
Q. 中古住宅の売却を考えていますが、新築の納期リスクは追い風になりますか?
A. 可能性は高いです。ユニットバスの納期未定や接着剤・コーティング剤の供給不安が続く局面では、設備が一式揃っている中古住宅やリフォーム済み物件を買う選択肢が買主側の現実的な答えになります。「築年数が古いから安く買い叩かれる」と決めつけず、現在の市況での価値を確認することが大切です。

取材ベース — 業者・取引先との情報交換で聞いた現場の話を、公表されている報道とつき合わせて整理したものです。雑談ベースの情報を起点にしているので、私の側で認識齟齬があった部分はファクトチェックの上で書き直しています。関係者特定を避けるため、具体的な業者名・取引相手は抽象化しています。

概要

土地を売却した後、その土地が新築分譲として再販されるまでには、解体・設計・施工・販売という長い工程があります。この工程の途中で、 予期しない理由で工事が止まる ことが起こりえます。

売却を考える方には直接関係ない話に見えるかもしれませんが、買取再販業者が今どんなリスク環境で動いているかを理解することは、 業者を選ぶ目を養う ことにつながります。

取材の前提

  • 対象: 買取再販で新築分譲を手がける複数の業者から聞いた話
  • 論点: 過去のショック(ウッドショック、コロナ禍便器不足)と現在進行形のリスク(2026年4月〜のナフサショック)
  • 視点: 売主側が業者選びでリスク対応力をどう見るか

コロナ禍の「便器が来ない」── 2021年秋

最初の事例は、コロナ禍に起きた話です。

新築一戸建てを分譲する案件で、引き渡しが間近に迫っていました。買主側はすでに賃貸を解約し、引っ越しの準備を進めている段階です。

ところが、 便器の納期が未定 になりました。一軒の家に通常は2箇所のトイレが設置されますが、発注しても入荷見込みが立たない。

原因はベトナムでした。2021年9月、TOTOとパナソニックがベトナム工場のロックダウンで便器部品の調達が止まり、ウォシュレット一体形便器や温水洗浄便座シリーズの納期遅延・受注停止を相次いで発表しました。LIXILにもTOTOからの代替受注と推測される注文が急増し、LIXIL側も通常体制で捌ける量をオーバーフローしました。三大メーカーが同時に詰まったわけです(出典: 住宅産業新聞 2021年9月27日「住宅用温水洗浄トイレ、受注停止や納期延長」)。

私が聞いた業者の判断はこうでした。仮設用の余っている便器を1個だけ持ってきて1箇所に設置し、これで一旦引き渡しさせてほしい——という形で買主に交渉したのです。

買主側もこの状況を理解し、簡易的なトイレ1箇所だけでしばらく生活する形で引き渡しが行われました。買主の引っ越しが急務だったため、引き渡しそのものを延期するよりも、不完全な状態でも進めるという判断です。

なぜ引き渡し延期ができないのか

ここで重要なのが、 引き渡し延期が買主側に与える影響 です。

買主は、新居への引っ越しを前提に生活設計を組んでいます。前の住居の賃貸契約は解約済み、引っ越し業者の予約も完了、子供の転校手続きも進んでいる——こうした状況で「引き渡しを延期します」と言われても、対応できないのです。

賃貸の解約は通常1〜2ヶ月前に通知します。延期が決まった時点で、すでに退去日は確定しています。再延長を交渉しようにも、次の入居者が決まっていれば不可能です。

「お客様も賃貸解約しているし、緊急事態だからしょうがないと理解してもらって入ってもらった」と業者が話していたのは、こうした事情があったからでした。

住宅ローン金利という時限爆弾

引き渡し遅延が買主に与える影響は、住環境だけではありません。 住宅ローンの金利 にも直結します。

住宅ローンの金利は、 実行時点の金利 が適用されます。融資契約を結んだ時点の金利ではありません。

つまり、引き渡しが3ヶ月遅れれば、その3ヶ月後の金利が適用されることになります。仮に 借入3,000万円・返済期間35年・元利均等 のケースで金利が0.5%上昇すると、総返済額は 300万円前後増加 します。

これは机上の話ではありません。 住宅金融支援機構が公表しているフラット35の金利推移 によれば、2026年4月は前月比+0.24%、2026年5月は前月比+0.22%の引き上げで、2か月で約0.46%の上昇が起きています(最低金利2.51%・2026年5月)。3か月の引き渡し遅延が、そのまま300万円規模の負担増として実害化しうる局面です。

業者側の見立てはシビアです。先行き金利が下がる見通しが立たない以上、引き渡し遅延は買主にとって相当な打撃になります。業者側もそれを分かっているからこそ、不完全な状態でも引き渡しを優先する判断をすることがあります。

2026年4月、ナフサショックという新しいリスク

コロナ禍の便器不足はベトナム工場の操業再開とともに収束しました。しかし、新築事業を取り巻く納期リスクは消えていません。今度は 原材料そのもの が来なくなる事態が始まっています。

2026年4月13日、TOTOが住宅用ユニットバスの受注を停止すると発表しました。原因は、 イラン関連の軍事緊張によるホルムズ海峡の事実上の封鎖 です(出典: 日本経済新聞 2026年4月「TOTO、ユニットバスの受注を停止 ホルムズ封鎖で材料ナフサ不足」)。

ナフサは原油から精製される石油化学製品の基礎原料で、樹脂・接着剤・塗料・コーティング剤など、現代の住宅建築に不可欠な多くの素材の出発点になっています。ホルムズ海峡が止まれば、日本のナフサ供給は止まります。

直接の影響として TOTO が止めたのは、 浴室の壁・天井のフィルムを貼る接着剤と、浴槽のコーティング剤 ── これらに使うナフサ由来溶剤の入手目途が立たなくなりました。LIXIL、パナソニック ハウジングソリューションズでも同様にナフサの確保が難航し、納期未定の表記が出始めています。

「今は断熱材やユニットバスを含むいろいろなものが、発注してみないといつ入るかわからない」と業者は話します。

これがコロナ禍便器不足と決定的に違うのは、 原因が日本国外の地政学にある ことです。コロナ禍は工場の操業再開で解消しましたが、ホルムズ海峡の封鎖はいつ解けるか誰にも読めません。業者側にも責任はないのですが、買主から見れば「事業主が原因で遅れた」という構図になります。

コスト転嫁の限界

納期リスクと並んで深刻なのが、 コスト上昇 です。

建築コストは資材費と人件費の両方が高止まりしています。資材費は石油化学製品の値上がりに引きずられ、人件費は職人不足から構造的に上昇傾向です。

これらのコストを販売価格にすべて転嫁できれば事業は成立しますが、 買主側の購買力には限界 があります。住宅ローンの返済能力は年収によって決まり、年収が劇的に上がるわけではありません。「建築費がどんどん上がる一方で、それが価格にもう反映できないところまで上がってきている」というのが、業者の現状認識です。

ショックの連鎖 ── 4つの事案を比較する

ここ5年で起きてきたショックを並べると、それぞれが違う原因・違う影響範囲を持っていることが見えてきます。

事案時期原因影響を受けた資材解消条件
ウッドショック2021年3月〜米国住宅需要急増+コンテナ不足+スエズ運河座礁構造材(輸入木材)物流正常化・代替調達
コロナ禍便器不足2021年9月〜ベトナム工場ロックダウン(TOTO・パナソニック現地工場)便器・温水洗浄便座工場操業再開
木材価格再燃2022年〜ロシア・ウクライナ情勢(北洋材停止)構造材(再び木材)代替供給網の整備
ナフサショック2026年4月〜ホルムズ海峡封鎖(中東地政学)接着剤・コーティング剤・断熱材・配管樹脂見通し立たず

並べると分かるのは、それぞれが独立して起きているわけではなく、 世界の物流・地政学・資源供給の不安定さ が違う形で住宅市場に降ってきていることです。一つが落ち着いても、次のショックが控えている。新築事業はこの不安定さの中で動いています。

海外の事情が日本の住宅市場を動かすのは、供給側だけの話ではありません。需要側が海外要因で変わることもあります。たとえば都心の高額帯では、中国の海外送金規制を背景に買主層が入れ替わった局面がありました。その経緯は中国の海外送金規制から間もなく1年——東京の不動産市場で何が起きたかに書いています。影響の範囲も時間軸も別の話ですが、国内の努力だけでは動かせない要因が住宅市場に効いてくる、という点では共通しています。

中古住宅へのシフトという可能性

新車の納期が読めない状況で中古車の人気が高まっている、という自動車市場の話を引き合いに、 住宅市場でも同じことが起きうる という見立てがあります。

新築は確かに魅力的だが、ユニットバスの納期未定が続けば、引き渡し時期そのものが読めない。さらに住宅ローン金利の上昇リスクも抱える。それなら、 設備が一式揃っている中古住宅やリフォーム済み物件を買う という選択肢が、買主側の現実的な答えになります。

これは中古住宅を保有している売主にとって、 売却機会が広がる可能性 を意味します。これまで「新築のほうが有利」とされていた市場が、納期と価格の不安定さによって、中古市場に追い風が吹く局面に変わりつつあるのです。中古市場の中でも、業者の抱え在庫と1次取得者ルートが別の値段で並走している実態については、関連媒体「不動産解体新書」で詳述しました ── 相場8.5億のタワマンが3億で売れた話 ─ 同じ建物に並走する3つの市場。

売主側の学び

不動産売却を検討している方が、この納期リスクの話から押さえておきたい点を3つに絞ります。

ひとつ目は、中古住宅の市場価値を再評価すること 。新築の納期不安定が続く局面では、中古住宅の相対的な魅力が高まります。「築年数が古いから安く買い叩かれる」と決めつけず、現在の市況での価値を確認することが大切です。

ふたつ目は、業者の体力と現場対応力を見ること 。便器1箇所での引き渡し対応、ナフサショックによる資材供給不安——こうした想定外の事態を、自社で吸収して買主に対応できる業者は限られます。査定額の数字だけでなく、想定外への対応実績を聞いてみるのが業者を見る目になります。

みっつ目は、業者を価格だけで選ばないこと 。市況が不安定な時期ほど、高値査定の裏に「想定外への対応力不足」が隠れていることがあります。査定額の根拠と、リスクへの備えをセットで確認することが、後のトラブルを防ぎます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や投資判断に関する助言ではありません。具体的なご相談は、各分野の専門家にご依頼ください。

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